TMSの刺激部位

TMSの刺激部位は、昔ながらの「この部位を刺激すればこの症状が治る」という局在論だけではなく、DMN・SN・CENなどのネットワーク上で、どのハブを介して病的回路を変えるかで考えるのが現在の主流です。 そのため、刺激部位の決定は「症状」→「関与ネットワーク」→「ネットワークを変えやすい皮質ハブ」→「実装可能な座標」という順に考えるのが実践的です。

基本の考え方

DMNは自己参照や反芻に関わり、CENは認知制御、SNは両者の切り替えを担います。 うつ病ではDMNの過活動、DLPFCを含むCENの低下、SNによる切り替え不全が報告されており、TMSはこのネットワーク間バランスの再調整を狙います。 したがって、刺激部位は「症状の中心が反芻なのか、認知制御低下なのか、切り替え障害なのか」で変わります。

決定の手順

まず臨床症状を整理し、反芻・意欲低下・不安過覚醒・強迫など、どの症候群が前景かを見ます。 次に、その症候群に対応するネットワークを仮定します。たとえば反芻が強ければDMN優位、注意切替不全が目立てばSN、実行機能低下が強ければCEN寄りに考えます。 そのうえで、ネットワークの「代表ハブ」であり、かつTMSで到達可能な皮質部位を選びます。

代表的な部位

うつ病では左DLPFCが最も一般的な標的で、CENを賦活し、DMNや辺縁系の過活動を間接的に下げる狙いがあります。 また、近年はsACCと機能結合の強いDLPFC座標をfMRIで同定して、個別化する方法が研究されています。 強迫性障害ではDMPFCやpre-SMAなど、前帯状皮質・線条体回路に近い部位が候補になります。

研究ベースの選び方

研究では、安静時fMRIでネットワーク結合を見て、標的部位が目的ネットワークと最も強く結合する位置を探します。 つまり「DLPFCを一律に刺激する」のではなく、「どのDLPFC座標がその患者の病的ネットワークに最も効くか」を決める発想です。 これにより、同じ診断でも反応が違う患者差を説明しやすくなります。

臨床実装

実臨床ではfMRIが常用されないため、モーターハンドエリアからの5 cm法やBeamF3法など、簡便な頭皮座標法が使われることが多いです。 ただしこれは「平均的に妥当な部位」を置く方法で、ネットワーク個別化の精度は研究的手法より低いです。 そのため、将来的には症状評価、脳画像、コネクティビティ解析を統合して、より個別化したTMS設計へ進むと考えられます。

要点

要するに、TMS部位の決定は「症状をどのネットワーク障害として見るか」で決まり、DMN・SN・CENのどこを介して病的状態を変えるかを考えます。 現在の標準はDLPFCなどの実装可能な部位ですが、研究の最前線では安静時fMRIを使ってネットワーク結合が最も強い個別座標を選ぶ方向です。

3つの脳のネットワークのMRI画像。左はデフォルトモードネットワーク、中央はサリエンスネットワーク、右は中央行動ネットワークを示す。

ACCは前帯状皮質のことで、大脳の内側にある帯状回の前方部分です。注意の切り替え、エラー検出、感情調整、痛みの感じ方、自律神経の調節に関わる重要な領域です。

位置

ACCは、脳梁を取り囲む帯状回のうち前側にあります。解剖学的には前頭葉の内側面に位置し、脳梁のすぐ上を走る領域です。

主な役割

  • 注意や実行機能の制御。

  • 間違いの検出と修正。

  • 不安や痛みなどの情動処理。

  • 心拍や呼吸などの自律神経調節。

臨床的な意味

ACCはうつ病、不安、強迫症、痛みの研究でよく出てくる部位です。ADHDやTMSの文脈でも、前頭前野と並んで注目されることがあります。

必要なら次に、DLPFCとの違いも簡単に整理できます。

ACC(前帯状皮質)とDLPFC(背外側前頭前野)の違い。

位置と構造の違い

ACCは脳梁のすぐ上に位置し、内側面(帯状回前方)にあります。一方、DLPFCは前頭葉の外側、上部に位置します。

機能の違い

領域主な役割ADHD/OCDとの関連ACC感情調整、注意切り替え、エラー検出、痛み・不安処理、自律神経OCDのCSTC回路過活動、ADHDの衝動制御DLPFC実行機能、ワーキングメモリ、計画・抑制、集中力ADHD不注意症状、TMS標的として右/左刺激

TMS治療での使い分け

  • ADHD: 主に右DLPFCを標的(注意力・実行機能改善)

  • OCD: ACC/SMAを含む前頭内側領域、低周波rTMSで過活動抑制


    TMSでは両領域とも重要ですが、疾患で刺激戦略が異なります。

SPクリニック岡山では主にうつ病向けの左DLPFC高頻度TMSが中心で、ADHD/OCDの場合は個別相談が必要です。spclinic

強迫性障害(OCD)に対するTMS(経頭蓋磁気刺激)治療は、薬物療法(主にSSRI)と比較して治療抵抗性例で有意な症状改善を示し、特に併用で効果が高い。 最新のメタアナリシス(2023-2026)では、TMSの反応率は38-58%で、シャム群の11%を上回る

実効性の比較

TMSはSSRI抵抗性OCD患者でY-BOCSスコアを30%以上低減(反応率38-58%)し、薬物療法単独の50-70%応答率を上回る場合があるが、薬は8-12週かかり副作用(性機能障害、体重増加)が多い。 メタアナリシス(Steuber 2023)で効果サイズHedges' g=0.65、反応オッズ比3.15倍。 再発率はTMSで1-3割と低く、標準治療の効果増強に適する。

刺激部位

主な標的は前帯状皮質(ACC/dACC)、内側前頭前野(mPFC)、補足運動野(SMA)、眼窩前頭皮質(OFC)、背外側前頭前野(DLPFC)。 Deep TMS(H7コイル)で深部(3-5cm)を刺激、FDA承認(2018)。 RCTでdACC低周波rTMSが28%改善、SMA加速TBSも有効。

併用心理療法

TMSは暴露反応妨害法(ERP/CBT)と併用で相乗効果、TMSが回路過剰活性を抑えERP耐性を高める。 メタレビュー(2024)でTMS+ERPが症状低減を強化、若年OCD試験(NExT)進行中。 薬物併用も推奨、TMS後ERP効果向上。